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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)108号 判決 1996年3月27日

大阪市中央区上町1丁目3番1号

原告

山喜株式会社

代表者代表取締役

宮本惠史

訴訟代理人弁理士

江原省吾

田中秀佳

白石吉之

東京都品川区北品川6丁目7番35号

被告

ソニー株式会社

代表者代表取締役

出井伸之

訴訟代理人弁理士

萼経夫

館石光雄

村越祐輔

主文

特許庁が、昭和58年審判第19903号事件について、平成7年2月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、「SANANSONY」の欧文字と「サンアンソニー」の片仮名文字とを上下二段に横書きした構成からなり、指定商品を第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」として、昭和48年3月27日登録出願され、昭和51年1月20日出願公告、昭和58年5月26日設定登録、平成5年11月29日更新登録され、現に有効に存続する登録第1587004号商標(以下「本件商標」という。甲第3号証)の商標権者である。

被告は、昭和58年9月14日、原告を被請求人として、指定商品を本件商標と同一ないし共通とする、登録第819212号商標(「SONY」)、同第837678号商標(「SONNY」)、同第837677号商標(「ソニー」)及び同第618689号商標の防護標章登録第17号標章(「SONY」)を引用し、商標法4条1項15号(混同を生ずるおそれがある商標)、同8号(著名な略称を含む商標)、同7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)の規定に基づいて、本件商標につき登録無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和58年審判第19903号事件として審理し、平成7年2月22日、「登録第1587004号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年3月16日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標は、下段の「サンアンソニー」の文字が上段の「SANANSONY」の欧文字の読みを片仮名表記したものとみるのが自然であり、かつ、これらの文字は、特定の語義を有する成語を表したものともいえないから、一種の造語と認めうること、本件商標は、原告主張のようにことさら「SAN」と「ANSONY」、「サン」と「アンソニー」とに分離すべき格別の理由をみいだすことはできないこと、被告の商標「SONY」及び「ソニー」が国内的にも国際的にも極めて著名であることから、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成中、特に「SONY」及び「ソニー」の各文字部分に着目し、又は該文字部分が看者をして特に印象づけられるものとみるのが相当である、と判断したうえ、本件商標をその指定商品に使用するときは、取引者、需要者は、該商品が「ソニー株式会社」又は「ソニーグループ」に属する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認を生ずるおそれがあるとし、商標法4条1項15号、46条1項の規定により、本件商標の登録を無効とした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件商標及び引用各商標の認定(審決書2頁2~11行)、請求人(被告)及び被請求人(原告)の主張部分の記載(同2頁12行~15頁6行)は認めるが、本件商標と引用各商標についての対比、判断(同15頁7行~18頁12行)は争う。

審決は、本件商標と引用各商標との対比、判断を誤って、本件商標の登録を無効としたものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  本件商標と引用各商標との対比

(1)  本件商標は、欧文字と片仮名文字とで「SANANSONY」と「サンアンソニー」とを同書同大同間隔で二段に横書きされて成るものであり、この軽重の差なく書かれている構成文字から、一連のものとして観察されるものである。

本件商標「SANANSONY」、「サンアンソニー」は、仮にこれを分節するとすれば、「サンフランシスコ(San Francisco)」のように、都市名の冒頭によく見られる接頭語「SAN(サン)」を、人名である「ANSONY(アンソニー)」に冠した造語として、「SAN」と「ANSONY」、「サン」と「アンソニー」として観察、称呼されるべきものであり、被告主張のように、これを「SANAN」と「SONY」、「サンアン」と「ソニー」とに分離しなければならない特段の理由は全く存しないし、ことさら「SONY」、「ソニー」の部分が「注意を惹かれ、強い印象を与えられる」ものとは認められない。

したがって、本件商標と引用各商標とは外観において相違する。

(2)  本件商標の構成は、上記のとおり、「SANANSONY」、「サンアンソニー」の各文字をそれぞれまとまりよく併記してなるものであるから、下段の片仮名文字は、上段の欧文字の読みを特定したものとみるのに何ら不自然なところはない。

したがって、本件商標は、「サンアンソニー」との一連の淀みない称呼を得るもので、これをことさらに末尾の「SONY」、「ソニー」を分離抽出して称呼しなければならない事情は見出すことはできない。しかも、称呼の際には、冒頭の「サ」の音に最も強勢をおいて発音し、末尾にいくに従い次第に弱く発音し、「SONY」、「ソニー」の部分は最も弱く発音するのが自然であり、本件商標の称呼は、称呼する者並びに聴く者には冒頭の撥音から始まって一連に流れるようなリズミカルで簡潔な感じを与えるものである。

また、仮に分節して称呼するとしても、上記のとおり、「サン」+「アンソニー」として称呼されるべきものである。

(3)  本件商標は、観念の点においても、商標全体をもって観察されるべきものであるから、その構成文字全体をもって、格別の語義を有しない一体不可分の造語であるとされるのが相当である。

(4)  商標に関する他の登録例や審決例についてみても、著名な法人の略称又は称呼を、最も注意を惹きやすい「冒頭」に配置した場合はまだしも、これとは異なり末尾に配置したもの、例えば、「CHANSONIE」と「シャンソニー」を上下二段に併記した商標(甲第5号証の3)や「ロルドアンソニー」と「Loldanthony」を上下二段に併記した商標(甲第6号証の3)が、「SONY」、「ソニー」と非類似であるとして、有効に登録されていることからしても、本件商標が「SONY」、「ソニー」と非類似であるとされてしかるべきである。

2  混同のおそれの有無

原告も、本件商標構成中に、被告が製造する電気製品について著名な商標である「SONY」、「ソニー」の文字を有していることを否定するものではない。

しかし、商標構成中に著名な商標「SONY」、「ソニー」の文字を有しているとしても、その冒頭部分を全く無視して、「SONY」、「ソニー」の部分にのみ重きをおいて観察、称呼することは不自然であるし、「SONY」、「ソニー」という綴りを含む商標は、全て被告と関連のある商標であると認識されるとするのは、余りにも社会通念に反している。

してみれば、本件商標をその指定商品に使用したとしても、被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるということはできず、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

なお、被告は、審判においては、商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標)の他、同項8号(商標権者の承諾を得ることなく出願した著名な略称を含む商標)及び7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)にも該当する、と主張した。

1  原告の主張1、2について

本件商標を構成する「SANANSONY」と「サンアンソニー」の両文字は、外観上いずれも同書同大であるが、これを一体のものとする熟語的な意味合いがないものである。

すなわち、本件商標より生ずる称呼は、7音という比較的長い音構成で、その音節よりみても「SAN」「AN」「SO」「NY」(サン アン ソ ニー)となり、息継ぎを「サンアン」と「ソニー」とに分けて発音するのが自然であるので、絶対に一連不可分にのみ称呼され、又は称呼しなくてはならないとする特段の理由はない。

本件商標を構成する「SANANSONY」と「サンアンソニー」中の「SONY」、「ソニー」の両文字は、被告がトランジスターラジオ、テープレコーダー、テレビ及びビデオ等の音響機器及び電子映像機器等の商品に使用する「SONY」、「ソニー」の商標と同一であり、かつ被告会社が創立以来、現在に至るまで引き続き長期にわたって使用しており、現在では「世界のソニー」「世界のマーク」といわれる程、日本国内はもとより世界各国において周知・著名となっている商標である。

上記のとおり、「SONY」及び「ソニー」の表示は、著名な商号であり、商標でもあるから、これらの表示にどのような文字を付加結合して、一見一連の商標の如く構成したとしても、これを見る世人は、その商標の構成に存する「ソニー」以外の表示を捨象して、当該商標をもって、「ソニー」の表示を中心観念とする商標として認識するものである。したがって、本件商標「SANANSONY」、「サンアンソニー」は、「SANAN」と「SONY」、「サンアン」と「ソニー」に分離されて称呼されるのが自然であり、世人にも「サンアン」+「ソニー」として認識されるものである。

このことは、「SONY」及び「ソニー」の文字を含む商標「ANSONY」に対する登録異議申立事件の異議決定(乙第7号証の1、2)、商標「パーソニー」に対する無効審判請求事件の審決(乙第8号証)、商標「SONYAN」や「SONYLINE」に対する訴訟事件についての判決(乙第9、第10号証)、「株式会社ソニーハウス」が「ソニー」に類似するとされた判決(乙第13号証)、商標「カロンソニー」に対する無効審判請求事件の審決(乙第32号証)、商標「サンソニイ」、「SUNSONY」に対する登録異議申立事件の異議決定(乙第33号証)において、これらの商標が「SONY」及び「ソニー」に類似するものとして、登録請求拒絶ないし無効とされている例からみても明らかである。

その上、被告は近年多角経営を行い、自ら又は関連会社をもって様々な業種に進出しており、それらを一括してソニーグループあるいはソニー企業グループと称している。

したがって、本件商標をその指定商品に使用した場合、一般需要者は、被告の業務に係る商品と、又は広汎な多角経営を営んでいる被告の企業グループと何らかの人的又は資本的なつながり等があるものと誤認するおそれがある。

2  以上のとおりであるから、本件商標は商標法4条1項15号に該当し、その登録を無効とするとした審決の認定判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本件商標と引用各商標との対比

(1)  外観及び称呼について

本件商標は、「SANANSONY」、「サンアンソニー」の文字を、外観上、同書体、同大、同間隔に書してなるものであり、その構成文字のうちに、著名な商標である「SONY」、「ソニー」の文字部分を含む商標であることは当事者間に争いがない。

本件商標は、「SANANSONY」と欧文字9文字の後半部分に「SONY」の4文字を含んでおり、「サンアンソニー」と片仮名文字7文字の後半部分に「ソニー」の3文字を含んでいることは、その構成から明らかである。

また、本件商標中の下段の「サンアンソニー」の文字は、上段の「SANANSONY」の欧文字の読みを片仮名表記したものと認められるところ、「サンアンソニー」は、母音を含む音節に分けてみると、「サン」、「アン」、「ソ」、「ニー」の4音節からなり、その後半部分に「ソ」、「ニー」の2音節を含んでいることも、称呼上明らかである。

審決は、この点に関して、本件商標は、これを構成する文字は特定の語義を有する成語を表したものともいえないから、一種の造語と認めうること、本件商標は、原告主張のようにことさら「SAN」と「ANSONY」、「サン」と「アンソニー」とに分離すべき格別の理由をみいだすことはできないこと、被告の商標「SONY」及び「ソニー」が国内的にも国際的にも極めて著名であることから、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成中、特に「SONY」及び「ソニー」の各文字部分に着目し、又は該文字部分が看者をして特に印象づけられるものとみるのが相当である、と判断している。

確かに、本件商標の上記文字構成及び音節構成を考慮すると、「SANANSONY」、「サンアンソニー」は、比較的長い文字及び音節の構成からなるものということができるが、これを原告主張のように、接頭語「サン」と人名「アンソニー」の結合語として観察、称呼しなければならない程の強い理由までは認められない。

しかし、他方、前記「SONY」、「ソニー」の著名性を考慮しても、「SONY」、「ソニー」が冒頭部分にあって特に注意を惹きやすい場合とは異なり、本件商標を観察、称呼する場合、比較的長い文字及び音節の構成からなるものにおける後半部分である「SONY」、「ソニー」の部分に特に注意を惹かれるものとして、ことさら「SANAN」と「SONY」、「サンアン」と「ソニー」とに分離して見なければならない格別の理由があると認めることもできないというべきであり、この点は、後記の登録例、審決及び判決例との比較によっても、肯認できるところである。

また、本件商標が、取引上、単に「ソニー」と略称されるものとは到底認め難い。

そうすると、本件商標は、これを構成する各文字が全体として、特定の意味を有しない一体の造語を形成するものとみるのが相当であり、その構成文字に相応して、「サンアンソニー」の称呼のみを生ずるものといわざるをえない。

したがって、被告の主張する「SONY」、「ソニー」が、被告の商号の著名な略称又は著名な商標であると、一般世人に認識されているとしても、本件商標のかかる構成にあっては、外観上、上記のように一体の造語よりなる商標と認識されるものというを相当とするから、被告の主張は採用することができない。

そしてまた、「サンアンソニー」と「ソニー」の両称呼を対比すると、両称呼は、いずれもその構成音数の差等により、称呼上明らかに聴き分けることのできる別異の商標といわなければならない。

(2)  観念について

本件商標は、上記のとおり、特定の意味を有しない一体の造語であって、特別の観念は生じない。また、「ソニー」の文字部分を含むからといって、被告の「ソニー」を直観させるものと認めることもできない。

他方、引用商標の「SONY」、「ソニー」からは、著名な商標である「SONY」、「ソニー」ないし、著名な企業であるソニー株式会社ないしその製品という観念が生じることは明らかである。

したがって、両者の観念は異なるものというべきであり、両商標が相紛れるおそれがあるものともいえない。

(3)  登録例、審決例、裁判例等について

本件商標の登録が有効か否かの判断において、過去の登録例、審決例、裁判例が直接影響するものでないことはいうまでもないが、仮に、被告の主張する事例と対比して検討してみても、以下のとおり、本件商標を無効とすべき理由は認められない。

被告の主張する事例等について、その傾向を探ってみると、以下のとおりと認められる。

<1> 「SONYAN」、「SONYLINE」、「ソニーハウス」のように、「SONY」、「ソニー」が語頭に来るもの、特に「ソニー」に普通名詞を付加したものは、類似と認められる場合が多い(乙第9、第10、第13号証)。

<2> 「ANSONY」、「パーソニー」、「サンソニイ」、「SUNSONY」のように、「SONY」、「ソニー」が語尾に来るものは、文字数や音数が少ないものについては、類似とされる場合が多い(乙第7号証の2、第8、第33号証)。

<3> 商標「ロルドアンソニー」のように、「ソニー」が語尾に来るもので、文字数や音数が多いものについては、非類似とされている(甲第6号証の3)。

<4> 商標「シャンソニー」のように、これを「シャン」と「ソニー」に分離することはできず、かつ、別異の観念を生ずるものは、非類似とされている(甲第5号証の3)。

<5> 被請求人が答弁せず、実質的に争っていない事案では、請求が認容される傾向がある(「パーソニー」、「カロンソニー」(乙第32号証)。ただし、「シャンソニー」の例を除く。)。

本件商標は、上記<1>、<4>、<5>には当たらないし、<2>に当たるというよりは、その構成文字数や音数に照らして、<3>に近いといえる。

(4)  以上によると、本件商標と引用各商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しないというべきである。

2  混同のおそれについて

本件商標と引用各商標は、指定商品が同一ないし共通であることは当事者間に争いがなく、また、被告は、著名な音響機器や電子映像機器等の製造販売の他にも、その子会社及び関連会社を通じて多角経営化していること(乙第22号証)、特に被告の関連子会社である「ソニー企業株式会社」及び「株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツ」の販売にかかる商品「ポロシャツ、Tシャツ、トレーナー」等に「SONY」及び「ソニー」を含む商標が使用されていること(乙第31、36~45号証)が認められる。

しかし、被告の主張によっても、ソニーグループに属する企業名は、上記のように、「ソニー・・・」と「ソニー」が冒頭にくるものであって、本件商標のように語尾に「ソニー」がくるものがあるとの証拠はない。

このことと、本件商標と引用各商標とが、外観、称呼、観念のいずれの点においても類似するものではないというべきことによれば、審決がいうように、「本件商標をその指定商品に使用するときは、取引者、需要者は、該商品が『ソニー株式会社』又は『ソニーグループ』に属する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認を生ずるおそれがあるもの」とは認め難く、他に審決の認定判断を支持しうる証拠も見当たらない。

以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由があり、審決は違法として取消しを免れない。

なお、本件商標が実際に使用される際、「SONY」、「ソニー」の部分がことさらに目立つように表示されるなど、その使用の態様が被告に対する関係で、商品又は営業と混同を生じせしめ、不正競争行為に該当すると評価されるに至った場合には、被告が不正競争防止法上の保護を受けられることはいうまでもない。

3  被告が審判において主張した商標法4条1項7号、8号該当性については、審決は判断していないが、本件商標は、上記判示に照らして、これをその指定商品に使用したとしても、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえないことは明らかであるし、また、前示のとおり、全体として一体の造語と認識されるというを相当とするものであるから、被告の著名な略称を含む商標ということもできない。

4  よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

昭和58年審判第19903号

審決

東京都品川区北品川6丁目7番35号

請求人 ソニー株式会社

東京都千代田区神田駿河台1-6 主婦の友ビル

代理人弁理士 萼経夫

東京都千代田区神田駿河台1-6 主婦の友ビル 萼特許事務所

代理人弁理士 館石光雄

大阪府大阪市中央区上町1丁目3番1号

被請求人 山喜株式会社

大阪府大阪市西区江戸堀1丁目15番26号 大阪商工ビル7階

代理人弁理士 江原省吾

上記当事者間の登録第1587004号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第1587004号商標の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

1. 本件登録第1587004号商標(以下、「本件商標」という。)は、「SANANSONY」の欧文字と「サンアンソニー」の片仮名文字とを二段に横書きしてなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、昭和48年3月27日に登録出願、同58年5月26日に登録され、その後、平成5年11月29日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

2. 請求人は、結論同旨の審決を求めると申立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第15号証(枝番を含む。)を提出した。

(1)請求人は、その前身である東京通信工業株式会社の時代である昭和30年2月より、一貫して「SONY」及び「ソニー」の造語からなる商標を使用し、その後、業績の発展に伴い、昭和33年1月商号を「ソニー株式会社」に変更して今日に至っているものである。

そして、「ソニー」及び「SONY」の表示は、請求人会社の製作に係る商品のラジオ、テープレコーダー、テレビ、ステレオ等について、その世界的に卓越した技術による製品の品質の優秀性とユニークなデザイン並びに多年に亘る盛んな広告宣伝活動により高い名声と信頼を得て、「SONY」及び「ソニー」の表示は、今や世界のマークとして全世界において、不動のものとなっている。

したがつて、上記「SONY」及び「ソニー」の表示は、本件商標の出願日よりはるか以前に、請求人の業務に係る商品を表示する商標としてばかりでなく、実に「ソニー株式会社」の商号をも表彰するものとして、内外の需要者に周知著名となっているものである。

また、請求人は、その業務に係るラジオ、テープレコーダー、テレビ、ステレオ等の電気製品を営むほか、甲第5号証の1に示すとおり、数多くの関連会社を設立し、多角経営を遂行しており、これらの会社名には、上記の如くいずれも「ソニー」の表示を結合しているものである。

(2)しかるに、日本国内はもとより、世界的にも著名な請求人の商号の略称である「ソニー」、又は登録商標「ソニー」「SONY」の表示にいくつかの文字を前半部又は後半部に付加結合して構成された、いわゆる結合商標の他人による商標登録出願があとを断たず、そのため、請求人は自らの商標のグッドウィル(顧客吸引力)を法的に保護するため、このような商標が登録されるごとに無効審判を請求しているものである。

そして、上記請求人の「ソニー」及び「SONY」の表示は、著名な商号であり、商標でもあるから、これらの表示にどのような文字を付加結合して、一見一連の商標の如く構成したとしても、これを見る世人は、その商標の構成に存する「ソニー」以外の表示を捨象して当該商標をもって、「ソニー」の表示を中心観念とする商標として認識することはいうまでもないことである。

(3)本件商標の構成は、「SANANSONY」と「サンアンソニー」とを二段横書きしてなるもので、該構成より「サンアンソニー」なる称呼を生ずるが、発音上は6音節からなり、第2音及び第4音に撥音「ン」を含むことから、「サンアン」と「ソニー」の2つのシラブルに分離されて称呼されるのが自然である。

また、本件商標の「SANANSONY」のローマ字及び「サンアンソニー」の片仮名文字は、特段の意味を表わすものではなく、その構成の態様からいって、「SANAN」及び「サンアン」の各文字は、「SONY」及び「ソニー」の形容詞的意図のもとに付加された接頭語と認められるから、世人は、本件商標をもって「SANAN」+「SONY」及び「サンアン」+「ソニー」として認識するであろうことは言うまでもない。

したがって、本件商標を看る者は、「ソニー」が請求人会社を表彰する著名な商標であるところから「ソニー」の表示に直ちに注意を惹かれ、本件商標をもつて「ソニー」を中心観念とする商標として認識するであろうことは疑いのないところである。

そうとすれば、本件商標は、取引上、単に「ソニー」と略称され、または「ソニー」の一種であるかの如く観念されて取り扱われることを自然とするものといわなければならない。

(4)被請求人は、答弁書において、「『SONY(ソニー)』という綴りを含む商標は、すべて請求人の『SONY(ソニー)』と関連ある商標であると認識されるとの主張は余りにも社会通念に反しており、到底是認できない。」と述べているが、被請求人は、請求人及びその関連会社が「SONY」を含む多数の商標を登録し、使用している事実(甲第5号証の1)、「SONY」を含む請求人の商標が「SONY」と類似するものとして(連合商標)登録されている事実(甲第8号証等)及び第三者の出願に係る「SONY」を含む商標が拒絶され、または登録を無効にされている事実を直視しないものであり、被請求人の態度こそ現実的でない。

(5)被請求人は、本件商標が「サンアン」と「ソニー」に区切られて称呼されるという請求人の主張を曲解している。

すなわち、英語の発音の法則にしたがっても、本件商標の前半部は「san an」と同じ音の繰り返しをリズミカルに発音するものであるので、この部分で1つのまとまりとされ、後半部の滑らかに平板に発音さる「ソニー」部分とは、音調が異なるので「サンアン」と「ソニー」に区切って発音されるものである。

また、被請求人は、本件商標が「サン」と「アンソニー」の2音節から構成されていると主張するが、これは前半部が極めて短いのに対して、後半部は冗長となり、発音上のバランスがとれないし、被請求人は、本件商標が「サン」と「アンソニー」に区切られて称呼される理由として、「サン」で区切られて称呼されている例を挙げているが、例示として挙げられているものは、いずれも「サン」が「太陽」「日」「聖」の意味のある語であって、本件商標のように意味のない造語に当てはめることはできないものである。

さらに、被請求人の主張する如く、本件商標が「サン」と「アンソニー」に分離して称呼されることがあるとしても、直ちに、それが唯一の称呼であるとすることはできないのであり、なお「サンアン」と「ソニー」とに分離されることがあることを否定することはできない。仮に「サン」と「アンソニー」に分離されるとしても、「アンソニー」は、「ソニー」を含む商標であり、請求人の「ソニー」を直感させるものである。

よって、本件商標が「サンアン」と「ソニー」に分離されて称呼する場合においても、また「サン」と「アンソニー」に分離されて称呼されるとしても、「ソニー」を中心観念とする商標と認識されるものである。

したがって、以上のことより、本件商標をその指定商品に使用した場合、請求人の業務に係る商品と、又は広汎な多角経営を営んでいる請求人の企業グループと何等かの人的又は資本的なつながり若しくはスポンサー的な関係を有するものと一般需要者は誤認し、その商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。

(6)前述したように、本件商標は、「ソニー」を中心観念とする商標であり、また「ソニー」の表示が請求人会社の著名な商号の略称として取引業界をはじめ、一般顧客にも極めて広く認識されている。

そうとすると、本件商標「サンアンソニー」が請求人「ソニー株式会社」の著名な略称である「ソニー」を含むものであること明らかである。

(7)被請求人は、本件商標が「サンアンソニー」と一連一体に称呼されるから、請求人の「ソニー」の著名な商号の略称及び商標を含んでいるものではないと述べているが、本件商標が「サンアン」と「ソニー」に分離されることは前述したとおり明らかであり、また「サン」と「アンソニー」に分離されたとしても、「ソニー」が分離して認識されるものであるから、本件商標は、請求人の著名な商号の略称及び商標を含んでいること明らかである。

したがって、本件商標は、請求人の著名な略称を含むにも拘らず、請求人の承諾を得ることなく無断で登録出願したものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものである。

(8)本件商標のように、請求人の著名商標で、かつ、著名な商号の略称である「ソニー」を含む商標が現実に取引界において使用されたとすれば、需要者は、請求人の業務と何等かのかかわりのあるものと認識し、その結果「SONY」及び「ソニー」の多数の著名商標の指標力が次第に稀釈化(dilute)されるに至るであろうことは、火をみるより明らかである。

そして、請求人の蒙る営業上の損害は測り知れないものがあるばかりでなく、その反面、本件商標の商標権者は、「ソニー」の名声に只乗り(free ride)して、労せずして不当な利益を受けることになる。

かくの如きは、社会的衡平の原則に反するばかりでなく、公正なる商品流通秩序を維持し、もって産業の発達に寄与せんとする商標法の根本精神を根幹から揺さぶることとなること必定である。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定にも違反して登録されたものである。

(9)叙上のように、本件商標は、商標法第4条第1項15号、同第8号、同第7号の規定に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項1号の規定に基づき、その登録は無効とされるべきである。

3.被請求人は、「本件審判請求は、成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、その理由及び請求人の弁駁に対する答弁を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出した。

(1)請求人は、「『SONY(ソニー)』にどのような文字を付加結合して、一見一連の商標の如く構成したとしても、これを見る世人は、その商標の構成に存する『ソニー』以外の表示を捨象して、当該商標をもって、『ソニー』の表示を中心観念とする商標として認識することは云うまでもないことである。」と主張している。

なるほど、『SONY(ソニー)』は、有名商標として周知の事実であるが、『SONY(ソニー)』という綴りを含む商標は、全て本件請求人と関連のある商標であると認識されるとの主張は、余りにも社会通念に反しており、到底是認することができない。

(2)請求人は、本件商標より生ずる称呼「サンアンソニー」は、「サンアン」と「ソニー」の2音節に分離して称呼されるのが自然であると主張しているが、この主張は明らかに失当である。

すなわち、2音節以上の語は、その一方の音節が他より強く発音されるのが原則であるが、「サンアンソニー」が、「サンアン」と「ソニー」に分離して発音されると、そのアクセントは、「サ(強)・ン(弱)・ア(強)・ン(弱)・ソ(強)・ニー(弱)」となる。このような請求人の主張にしたがえば、本件商標の「サンアンソニー」は、1つの語で3箇所にアクセントがあることになり、これは、英語の発音上の原則を全く無視したものである。

また、今日、称呼上「サン」を冒頭に有する語において、「サン」は、一種の接頭語として第1音節を構成する。例えば、綴りでは「SUN」、「SAN」と相違するが、需要者に日常広く親しまれている「サンビーム(日光)」、「サンブラインド(日除け)」、「サンフラワー(ひまわり)」「サンライズ(日の出)」等の語においては、何れも「サン」が一種の接頭語として1音節を構成している。

さらに、我が国でも広く知られているアメリカの都市「サンアントニオ」、「サンジェゴ」及び国名の「サンマリノ」等の称呼は、いずれも「サン(SAN)」が1音節を構成し、また、本件商標中の「SAN(サン)」は、「SAINT(セイント)」を意味するものであり、このことからも本件商標が「SAN(サン)」と「ANSONY(アンソニー)」の2音節から構成されていることが理解される。

このような事実並びに前述した英語の発音上の原則を勘案すれば、本件商標「サンアンソニー」は、「サン」と「アンソニー」の2音節からなり、「サンアンソニー」と称呼されると解するのが、社会通念に照らして妥当である。

しかも、本件商標は、「SANANSONY」及び「サンアンソニー」の文字を軽重の差なく、同書同大にかつ同間隔に書したものであるから、これを「SANAN(サンアン)」と「SONY(ソニー)」とに分離しなければならない特段の理由は全く存せず、一連に「サンアンソニー」と称呼されるものと思料する。

そして、本件商標が造語商標であること、「サンアンソニー」と「ソニー」が非類似であることは、既に本件についての異議申立事件で判断がなされているものである(乙第1号証)。

したがって、本件商標は、「SANAN」「サンアン」と「SONY」「ソニー」とに分離観察されることなく、一連に「SANANSONY」「サンアンソニー」と観察され、それ故に本件商標より、請求人の示す「SONY」「ソニー」を認識させることは全くない。

以上の理由から、本件商標と、請求人の有名商標は、聴覚上明確に区別され、両者間に彼此誤認混同を生ずるおそれは全くないから、本件商標は、商標法第4条第1項15号には該当しないものである。

(3)上述したとおり、本件商標の「サンアンソニー」は、第1音節の「サン」と2音節の「アンソニー」を一体不可分に結合したもので、「サンアンソニー」と一連一体に称呼されるものであるから、本件商標中に請求人の「ソニー」なる略称並びに商標を含んでいると解することは到底できない。

(4)請求人は、「ソニー」を含む商標として甲第8号証乃至同第10号証の例を挙げているが、これらは本件とは関係がないものである。

すなわち、甲第8号証乃至同第10号証中の「SONYAN」、「SONY」、「SONI」の各商標からは容易に「SONY」「ソニー」を直感させることができるが、本件商標「SANANSONY」と、上記「SONYAN」、「SONY」、「SONI」の各商標とは非類似であり、本件商標から直ちに「SONY」「ソニー」を直感させることはない。よって、甲第8号証乃至同第10号証は、本件の参考にはならない。

したがって、本件商標は、請求人の「ソニー」なる略称並びに商標を含んでいると解することは到底できないから、商標法第4条第1項第8号、同第7号には該当しないものである。

(5)以上の理由により、本件商標は、商標法第4条第項1第15号、同第8号、同第7号の規定に違反して登録されたものではない。

4.よって判断するに、本件商標は、その構成前記のとおり、「SANANSONY」と「サンアンソニー」の各文字を二段に横書きしてなるものである。

そして、下段の「サンアンソニー」の文字は、上段の「SANANSONY」の欧文字の読みを片仮名表記したものとみるのが自然であり、かつ、これらの文字は、特定の語義を有する成語を表わしたものともいえないから、一種の造語と認め得るものである。

これに対し、被請求人はいくつかの例を挙げて、本件商標中の「SAN」及び「サン」の文字は一種の接頭語として1音節を構成し、よって、本件商標は、「SAN」と「ANSONY」及び「サン」と「アンソニー」とに分離されると主張しているが、本件商標は、前述のとおり、「SANANSONY」及び「サンアンソニー」の各文字を同書、同大、同間隔に二段書きしてなり、特定の語義を有しない造語を表わしたものと認められるものであるから、これを被請求人の主張するように、ことさら「SAN」と「ANSONY」及び「サン」と「アンソニー」とに分離すべき格別の理由を見い出すことはできないというべきであり、よって、この点に関する被請求人の主張は採用できない。

ところで、本件商標の構成中、後半部の「SONY」及び「ソニー」の各文字は、請求人がトランジスターラジオ、テレビ、テープレコーダー等の電気製品に付する商標として、昭和30年代より今日に至るまで継続的に使用してきた商標と認められる。

そして、請求人が述べるように、昭和33年1月、請求人の商号自体も「ソニー株式会社」と変更され、以来、請求人はその商号の略称として、また、同社の代表的出所表示として「ソニー」及び「SONY」を使用し、各種媒体による広告、宣伝を行った結果、上記「ソニー」及び「SONY」は、国内的にも国際的にも極めて著名となり、本件商標が出願された当時、既に一般世人の間において、請求人が製造販売する商品の商標としてだけでなく、請求人の略称としても広く認識され、これに接する取引者、需要者は、直ちに請求人を想起するまでに著名となっていたものと認め得るものである。

また、請求人は、多角的経営を行い、自ら又は関連会社をして様々な業種に進出し、多種多様な商品を取扱い、「ソニー株式会社」を中心として関連会社と「ソニーグループ」を形成していることもよく知られているところである。

一方、本件商標は、前述のとおり、これを「SAN」と「ANSONY」又は「サン」と「アンソニー」に分離して把握され、また称呼されるとする特段の理由を見い出すことができないばかりでなく、その構成中「SONY」及び「ソニー」の各文字については、請求人の著名な略称として、また著名な商標として理解、認識されること前記のとおりであるから、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成中、特に「SONY」及び「ソニー」の各文字部分に着目し、又は該文字部分が看者をして特に印象づけられるものとみるのが相当である。

してみれば、本件商標をその指定商品に使用するときは、取引者、需要者は、該商品が「ソニー株式会社」又は「ソニーグループ」に属する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、請求人の他の主張について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年2月22日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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